時の声

時の声 (創元SF文庫)

時の声 (創元SF文庫)

57年から62年の間に書かれたバラードの初期作を収録した短編集。果てしない宇宙の広がりを背景にした表題作から、アイデアSF的な作品、奇妙な味を感じる作品まで、その形態はさまざまながらも、その多くの作品には世界を知覚すること、認識することへの執着が感じられる。
この諸短編の登場人物達は、多くは破滅に向かっている世界のなかで、抗うことなく受動的それを受け入れる。その時破滅は、登場人物達の多くがどこか欠損し不完全である感覚、知覚を通じて、なにかが欠けた身体的な体験を通じて記述されるのだ。そしてそれが読者に世界の滅びを強烈に印象づけるのではないだろうか。

そこに「外なる現実と内なる精神が出会い、融けあう場所」としての「内宇宙」を見ることもできるのかもしれない。

ただ滅びる世界があるのではない。滅びる世界で滅びる人間の身体を、(それに伴って必然的に)不完全となった認識に則って表現する。それがバラードの破滅のヴィジョンが他を圧して魅力的な理由だと、私には感じられる。