白人とは何か?:ホワイトネス・スタディーズ入門


白人とは何か?―ホワイトネス・スタディーズ入門 (刀水歴史全書)

白人とは何か?―ホワイトネス・スタディーズ入門 (刀水歴史全書)

「白人」という概念を人種的身体的な問題としてとらえるのではなく、社会的に構成されたものとしてとらえ分析する。そのような問題意識の本に編まれた論集です。編者の藤川隆男の白人研究の見取り図を示す理論的な論文と、他の研究者による個別事例の分析論文が掲載されています。

白人は、普遍的な人間存在の象徴として、正常なもの、すべての人間の基準となるものとして存在したために、それ自体が問題化されることなく、観察の対象となることなく、見過ごされてきたのである。白人は常に観察者の立場にあり、軌範の設定者として、マイノリティ問題を探求してきた。このようなやり方は、明らかに限界にきている。(p.8藤川隆男「白人研究に向かって」)

このような観点から、普遍的存在としての白人ではなく、特殊な対象として研究の対象にする。未開社会を研究するのと同一の視点から白人を研究する。そこでは「白人」は人種としてのコーカソイドにとどまらず、ある面ではユダヤ人日本人黒人も白人になりうる。

このような視点は、当然サイードの『オリエンタリズム』等のポストコロニアリズム研究の延長線上にあり、それを発展させるものと読むことができます。その点からは、一定の成果を上げていると思います。特に不完全な他者を設定することで定義される「白人性」の概念を考えることは、これまで白人とひとくくりにされてきた人々の中での階級的問題(論文の中でも取り上げられている、アメリカにおけるアイルランド移民の問題等)や日本人等の非白人者が外部(アジア、アイヌ等)へむける眼差しの分析に有用でしょう。

しかし、私的な印象としてはそれほどのインパクトは感じなかったというところです。確かに白人が構築されたという視点は正しく有用ですが、ただサイード等の議論の枠を越えるものはないですし、思想的に強烈に我々の概念を揺さぶるというものではないと思いました。そのため全体論も個別研究もこれまで積み上げられてきた、ポストコロニアリズム的歴史社会研究の変奏と感じられ、「白人研究」を行う決定的な重要性が正直見えにくかったと感じました。

ただ、編者によると白人研究は特に欧米で非常に盛んになっているようですし、そこからやもちろん日本から新しいパースペクティブを提供するような研究が出てくることは期待ですね。