ゴッドスター


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古川日出男に関する私的な印象、それはまず「語る=騙る」作家であり、速度の作家でした。(そして当代随一の真の意味でのファンタジー作家)


ここ最近は、その語り=語りの速度の追求が主要作業になっているように感じられていましたが、本作はその試みにおいて究極的な作品と感じられました。


生まれるはずだった甥と姉を交通事故でなくした女性の目の前に突如として現れた、記憶をなくした少年。女性は少年を家に連れ帰り、生活をともにする。
やがて、二人の目の前に「明治天皇」を名乗るホームレスが現れる……

ストーリーといえるのはこれぐらいです。そしてそのすべては主人公の女性の語りによって、生み出され、展開していきます。
そこでは、名前と記憶のない少年が、女性の絶望、感情がのすべてが、不確かな語り=騙りのなかで描写され。世界が、時間が、その語りのなかで意味をなくしていきます。
それは語り=騙りによる現実・日常の融解であり、世界の語り直し=天地創造なのです。


そして少年の成長(名付け)と「明治天皇」をなのるホームレスとの出会いが、彼女の語りを圧倒的に加速させ、それはついにこの「平成」の世界を「明治」に騙り直すところまで到達します。あたかも騙りの速度が光速を越えたように……


作者自身が「読解は要らない。身を委ねてほしいと思う。」と語る本作。さてここで騙りの加速をある種突き詰めた(光速に触れた)古川日出男がどこにゆくのか、楽しみです。(そのひとつの可能性が、FictionZeroに掲載された未完の「デーモン」にあると個人的には感じていますが……)