ロック・ラモーラの優雅なたくらみ

ロック・ラモーラの優雅なたくらみ

ロック・ラモーラの優雅なたくらみ


ファンタジーの魅力とはなにか。
その答えは各者各様でしょうが、個人的にはその大きな一つに無限に増殖する世界設定があると思います。
本書ではその楽しさを存分に味わうことができます。16世紀位のヴェネツィアを思わせる水の都カモール。独自の暦や、錬金術によるアイテム、街の原型を築いた古代種族の遺産。都市やギルドの歴史をベースにゲーム的なヴィジュアル性を加えた都市は、かなり魅力的です。また、礼儀作法や食べ物、衣服も細かく設定されており謹んで作者に設定厨の栄誉を関するものであります。

そこで繰り広げられる物語。天才詐欺師主人公ロック・ラモーラと彼の幼なじみ悪党紳士団が貴族相手に繰り広げるコン・ゲームに都市の犯罪組織の長たちが殺されていく事件が絡み合い、そしてなかなかに容赦のない展開を経てラストへと…… という展開は、上記の設定の力も助けて一気に読み切らせるだけの力を持っています。
詐欺師ものとしては、少々だましの手口や展開が簡単すぎる点や、契約魔道師と呼ばれる敵の魔法使いが明らかに強すぎると感じる設定であるのに、負けるときがあまりにあっさりと負けてしまう(話を転がすための設定が強すぎる。つまりご都合主義すぎる)ところなど不満があるといえばありますが、ロックと仲間たちの愉快な掛け合いの魅力。本編の最中に「幕間」という形でロックの過去や街の設定(ホントに設定史料という感じ)を挟み込み本編での不自然な説明を省くことでもたらされるスピード感など、一気に最後まで読ませる力に満ちた良質のファンタジーでした。「幕間」という言葉からも見えるように全体的に演劇的というかモチーフの一つにシェークスピアを感じさせたところもありましたね。



本書は2006年に原書が刊行。著者は文学と歴史とゲームを愛する29歳で本作がデビュー作。わかる人はわかりますが主人公のロックの名前の元ネタは、FFだったりします(笑)全七部作で本国では第二巻も刊行されたようで、続きが実に楽しみです。


しかし、このように隅々まで設定された本作でも長さの単位が「フィート」だったり、時間の単位が「分」だったりはするわけです。そのことが悪いとは思いません。このような基本的な語りの部分での「単位」の形は海外ファンタジーには多い傾向ですが、意味物語の外部にあるものとして構成されているといえます。つまり物語を「語る」部分のその股下の語りを成り立たせている部分、よりメタな部分であると。それに対して、長さや時間を設定するという手もありますが、これもやり過ぎると根本的に読めないものになってしまう。それにある意味で「日本語」なり「英語」なりで異世界を構築すると言うことからすでにこの問題は始まっているわけですから。
この、ファンタジーと単位や語る言葉の問題はまた別稿で語りたいと思います。



以下は完全ネタバレのつぶやき。というか個人的な叫び。本編を読んでいない人は避けることを強く推奨



上で容赦のない展開と書きましたが、何が容赦ないって。ナツカですよ。ナツカ。

街の犯罪組織のボスの娘にして主人公の幼なじみ 本編での初登場シーンが

男性用の膝丈ズボンに袖のふくらんだ黒絹のブラウスといういでたちで、(中略)鉄底のブーツ(いまだにお気に入りなのだ)カツカツと鳴らし、番兵の間を抜けてくる。歓迎するようにほほえんだものの、目は完全には笑っておらず、飾りのない黒縁メガネのレンズ越しに、ひとみがそわそわと動いていた。


黒縁メガネ!!!!!!!男装ズボン!!!!!!! 勝ち気な幼なじみ!!!!!!!
そして主人公とは恋愛じゃない友情!!!!!!!!!!!! そして強引に婚約させられるって もう私の好きなキャラ要素をぶち込んだような素敵キャラで。
もう……

としていたら、もう、ねえ 

馬の小便につけられて樽で宅配便って!!!!

もう涙目ですわ。でも、これによって作品に緊張感も出たし、一気に話も動いたし、必要だったのはわかるけどねえ。でもねえ。

あーーー ロックとの乗り気でない婚約(彼には惚れてる相手がいるし)友達としては…… から色々イベントあって、でもって、実は…… みたいなラブコメ展開を脳内で妄想要請しまくった私はどこにいけばいいのですか。

……と本当にどうしようもない叫び。きりがないのでこの辺で