ハバナ奇譚


ハバナ奇譚

ハバナ奇譚

mixiに投稿したテキストの改稿版


現代のマイアミ。記者として生計を立て孤独に生きるキューバからの亡命者セシリアは、マイアミのいたる所に出没するという移動する幽霊屋敷の取材を始める。そして取材の帰り立ち寄ったバーで一人の老女と出会う。彼女が語るのは、19世紀中頃から始まるキューバをつくった三種の移民の物語。スペイン系、アフリカ系、中国系。それぞれがそれぞれの事情でキューバに渡ってくる。家族の物語、そしてその物語と並行して進められる。幽霊屋敷の調査。やがてその二つは混じり合い。一つの物語へとつながっていく。

と、簡単な概要はこんなところ。まずなんといっても移民達の物語が秀逸。
それぞれの家族が、スペインや中国にいた時代から話が起こされ、時代の激動の中で翻弄される家族の姿や、奴隷であった時代が語られます。そして、それぞれの人々がそれぞれの理由でキューバにやってくる物語は、一つの近現代史の移民物語としても興味深く読むことができます。

そして同時に、幽霊や妖精が当たり前のように彼ら彼女のらの前に現れ、その運命に大きく関与していく。その歴史のうねりの中に、自然と幻想が絡んでいく物語は、まさに「マジックリアリズム」としかいいようない不可思議な面白さに満ちています。

特にとある家系の女性(嫁含む)にしか見えない悪戯妖精のマルティニコがいろいろと可愛いです。

そのように現実と幻想の間を揺れ動く、物語は、同時に常に現代のマイアミと過去の移民の歴史の間を揺れ動いていきます。
移民の記憶の探求と現代の亡命者セシリアのを共鳴し合わせる。このあたりのコントロールは非常に巧く、過去の話がいいところで現代に戻ってしまい、現代の話が佳境のところで過去に飛ばされるというわけで、ページをめくるのももどかしい読書体験をする羽目になります。 

そして読者はやがて気がついていきます。移民達の物語も、現代の亡命者セシリアの物語も共に「故郷を失った者」の物語であると。
移民、記憶、家族、歴史、魔術、幽霊といった諸要素がが絶妙に絡み合い、「故郷と愛」の幻想を紡ぎ出す。そんな非常に質の高く、なおかつ圧倒的に楽しい小説であると思います。