空気の底 はるかなる星

空気の底―The best 16 stories by Osamu Tezuka (秋田文庫)

空気の底―The best 16 stories by Osamu Tezuka (秋田文庫)

手塚治虫名作集 (5) はるかなる星 (集英社文庫(コミック版))

手塚治虫名作集 (5) はるかなる星 (集英社文庫(コミック版))


手塚治虫が1970年頃に少年誌や青年誌に発表した短編を収録した作品集二冊。収録されている短編は、ジャンルもSF、時代物、ホラー、西部劇等々さまざながら、どれも高水準の物語を構成しており、手塚治虫の短編作家としての力用を感じさせてくれます。その特徴としては卓越した物語構成力でしょうか、上記のようにこの二冊の中にはさまざまなジャンルの作品(SFが一番多いですが)収められており、当然ストーリーの展開もさまざまです。ただ、どれにおいても一つ一つの台詞や絵があるべき場所に収まっており、どの物語も最初から最後まで圧倒的に見晴らしがよく明確で明快です。それは一つの美点であると同時にそのある種の隙のなさ、一つの主題やテーマを語ることの上手さは、私的な感覚であるとは思いますがどこか読み終えたあとの物足りなさを感じさせたのも事実です。

他に興味深い点としては、絵のおもしろさでしょうか。初期の丸を基本とした絵の特徴を残しつつも、リアルな人物造形や青年誌な絵柄も取り込んだこの作品集での手塚治虫の絵からは、マンガの絵の持つ迫力が、いまの主流の漫画作品とはまた異なった印象で伝わってきます。特筆すべきは『はるかなる星』に収録された「グロテスクへの招待」。好きになった物と「同化」してしまう少女ネリの姿。さまざまな物と同化したその姿の持つまさに「グロテスク」としか言いようのない迫力からは手塚治虫の丸みを帯びた絵が生み出す不気味な力があふれています。